「クリエイターがいない。」

チラシやホームページ制作など様々なクリエイティブな仕事がありますが、神戸の場合、それらの仕事は、多くのクリエイターを抱える東京や大阪に頼っているのが現状です。

クリエイティブ産業に関わる人の数は、東京23区は92万人、大阪は17万人、福岡6万人。神戸は、ずっと少なく2万人。

クリエイティブ産業(都市型創造産業)を市内で賄えておらず、年間で3千億円超が市外に流出していると試算されています。

神戸の成長戦略には「クリエイターが欠かせない」。

官民ともにクリエイターの確保を急いでいる状況ですが、神戸市の外郭団体「神戸市産業振興財団」が運営する「神戸起業操練所」では、中小企業・起業支援をする側面から、『ACE-KOBE クリエイティブ起業論』と題し、エースクリエイターの育成講座を開催しました。

全5回の連続プログラムでは、神戸でブランディング会社を運営し、様々な企業やプロジェクトのブランディング支援を行っているAKIND Inc.(アカインド)の岩野翼氏と森江朝広氏を講師に迎え、セルフブランディングを通した、クライアントの価値創造を学ぶワークショップやプレゼンテーションを行いました。

参加者は、原則35歳以下で、デザイン・クリエイティブ事業に従事する若手クリエイターを中心に、今後、神戸のクリエイティブ産業を支える人たち。グラフィックデザイナーやWEBデザイナー、現代アーティスト、ダンサーなど、多種多様です。

ブランディングとは何かはさておき、なぜブランディング講座なのか。

例えば、デザインは見た目だけではなく、そこに至った経緯や方向性を議論した上での最終的なゴールです。

東京や大阪など大きなプロジェクトを抱える都市だと、プロデューサー、コピーライター、WEBデザイナー、グラフィックデザイナーなどが参加し、いわゆる分業で話が進みますが、小さなプロジェクトだと、グラフィックデザイナーがすべてを兼務する必要があったりします。

つまり、今回の講座は、神戸で活躍するクリエイターそれぞれが、クリエイティブな業務の中に、クライアントが抱えるマーケット・ビジョンを意識するということを学ぶことが大きなテーマです。

デザインはデザインだけじゃないということ学び、神戸のクリエイティブ産業の底上げを目指す講座となります。

それでは、実際の講義の様子を紹介します。

講師の岩野氏と森江氏はデザイナーでもクリエイターではない、いわゆるプロデューサー。

プロダクトアウトなのかマーケットインなのか。二者択一ではありませんが、クリエイターが忘れがちなマーケットを意識した戦略的ブランディングについてのセミナーなどが行われました。

開催にあたり、参加メンバーそれぞれが準備してきた資料を元に、1回目と2回目の講座で全員がピッチ。自身のブランディングについて振り返り、講座参加前の状況を確認する「現状把握」です。

ちなみに「ピッチ」というのは、新しいアイデアなどを説明する際に用いられる言葉で、クリエイティブ業界でよく用いられる言葉です。

デザイナーやクリエイターが、自分の事業について改めて説明することはそこまで多くありません。「始まる前から大変でした。」と答える参加メンバーもいて、「セルフブランディング」のベースとなる資料作りはなかなか大変だったようです。

講座全体の流れとしては、最初に自分の事業についてピッチ。参加メンバーをグループ分けし、その中の誰かの事業をグループでブランディングを行っていきます。途中でセミナーやグループワークを挟みながら、最終的にブランディングした事業についてグループでピッチを行います。

第1回目から第4回目までは、ブランディングに必要なセミナーが適宜行われました。

第1~2回目のセミナーでは「ブランド指針」についてレクチャー。出来上がったデザインが「見える価値」であれば、ブランドは「見えない価値」と言えるかもしれせんが、その両方からブランディングは行われています。ブランディングの全体像についての概論を学びます。

第3回目は、事業定義・ビジョンなど、事業としてあるべき姿を学びます。プロモーション・マーケティング・イノベーションとブランディングの違い、事業の位置付けを明確にする必要性に関するレクチャーです。

第4回目は、ターゲット、マーケットの把握について、また、独自価値や差別化要因についてのレクチャーです。クリエイターとして自分の作品などについて考えることはありますが、独自価値や差別化要因、つまり、周囲と比較した上で、自分を評価することはなかなか難しいのではないでしょうか。

最終5回目では、改めてブランディング概論と、最終的に行われたグループでのピッチについて、総評などです。

アカデミックな分野では、考え方によっては複数の正解があったりしますが、その手法を選択する方が良いか、実例を多くインプットする必要があるかもしれませんし、クライアントによってもどういったアプローチが最適かというのは変化していきます。

「今後、勉強することが増えました」との声も聞かれ、ブランディングの重要性について体験・認識ができたのではないでしょうか。

実は、日本においてブランディングの歴史は浅く、ここ20年で日本に入ってきた概念です。業務でブランディングに関わっている人のほとんどは、現場で試行錯誤した叩き上げです。

講師の二人はもちろん現場でブランディングを行うプロフェッショナルですが、岩野氏は、「ブルーネル・ユニバーシティ・ロンドン」で、ブランディング&デザイン戦略修士課程を卒業し、海外発祥のブランディングを体系的にも学んできたこともあり、セミナーでのブランディングに関する体系的な説明は、参加者から「分かりやすい」との声も聞けました。

セミナーと平行して行われる、グループワーク。「セルフブランディング」というテーマですが、グループの中にブランディングをする人と、される人(クライアント)を分けて、両方を身近に体験していきます。

つまり、セルフブランディングは、クリエイターが「営業テクニック」を学ぶということではなく、自身のブランディングをし、クライアントのブランディングに寄与する方法を実感して仕事に活かすということが目的です。

最終回の5回目で開催された、グループでのピッチ。最初にもピッチを行っていますので、講座を通してどういう内容に変化したか、また、その内容を聞きながら自分の事業のブランディングに活かしていくことが重要なポイントです。

全体として事業のブラッシュアップが行え、クリエイターやデザイナーが自らのブランディングをすることの意義について、体系的に学べた連続講座となりました。平日の夜に集まって、1回3時間。ここでの経験が、今後、神戸のクリエイティブ産業の底上げに繋がることを予想させる講座となりました。

 

参加者 カワッタデザイン 代表 河田 悠輝 氏

勉強・現場のどちらか一方では知識が枯渇するという思いで、今回の講座に参加しました。自分以外のクリエイターと真剣に議論したり出会う事が少なかったので、新しい発見が多かったです。

これまで、1を2にする作業はしてきましたが、ブランディングは0を1にするような作業で、商品・サービスの価値を見出す面白さを実感しましたし、最終回は達成感もあって「ジーン」ときました。

「自分が何屋さんか?」自信を持って言えないこともあったので、今後は、講座で学んだことを仕事に活かしていきたいです。

 

神戸起業操練所 クリエイター起業相談 担当

株式会社ごぶごぶ 石川 武志 氏

ブランディングやマーティングを行うのはプロデューサーの役目ですが、例えば、クリエイターが学校でブランディングについて学ぶことが少なく、現場で経験から学んでいくことが多いのが実情です。プロデューサーは、会社でいうところの管理職なのかもしれません。

講師のお二人は、現場経験も豊富にあり、岩野氏については海外で体系的なブランディングを学び、アカデミックな部分と実務的な部分を両方お持ちであるということで、講師をお願いしました。

参加者にとっては、ブランディングを体系的に学べる良い機会になったと思います。

神戸起業操練所 運営責任者 株式会社ツクリエ 代表取締役 鈴木 英樹 氏

今回の講座は、少人数で行うことにより、若手クリエイターの「横のつながり」が生まれることを狙っています。また、クリエイター・デザイナーは見える部分のデザインだけではなく、企画段階での商品・サービスのコンセプト作りにも関わり、価格競争に負けない人材になってほしいという思いがあります。

今後、神戸のクリエイティブ産業活性化に貢献できるよう、多くのイベントを企画していきたいと思います。

(以上)