老舗の悩み「いいお酒、でも売り方がわからない」
若者のアルコール離れに加え、飲み手の中心が70代となる中、新しい飲み手の開拓を模索していた『沢の鶴』。商品企画を担当する宮﨑さんは、「長年やってきたからこそ、慣習的なやり方になってしまっている。改革が必要だ」と感じていました。そんな折、そろばんなど伝統産業に変化をもたらしてきた『シーラカンス食堂』の小林さんの講演を聴き「面白い人がいる!」と感銘を受け、相談したのが一緒に商品づくりをするきっかけでした。
神戸起業操練所は起業家と地元企業とクリエイターを結ぶインキュベーション・プラットフォームです。
企業が外部のクリエイターと共に取り組むことで、新たな発想が生まれ、
「価値」が創造されるまでの過程を、企業担当者やクリエイターの声を交えながら紹介します。
左から「沢の鶴 株式会社」マーケティング室次長の宮﨑紘二さん、「合同会社 シーラカンス食堂」代表でデザイナーの小林新也さん
若者のアルコール離れに加え、飲み手の中心が70代となる中、新しい飲み手の開拓を模索していた『沢の鶴』。商品企画を担当する宮﨑さんは、「長年やってきたからこそ、慣習的なやり方になってしまっている。改革が必要だ」と感じていました。そんな折、そろばんなど伝統産業に変化をもたらしてきた『シーラカンス食堂』の小林さんの講演を聴き「面白い人がいる!」と感銘を受け、相談したのが一緒に商品づくりをするきっかけでした。
沢の鶴の悩みを聞き、まずターゲットを若者にしぼり、親しみやすさを感じるよう〈日本酒のスタイル〉そのものをデザインし直す必要を感じた小林さん。おちょこなどの酒器を使う従来の〈型〉をやぶることを提案します。アイデアの原点は、50 年前の若者のスタイルだった〈カップ酒〉。それを現代に合った〈ボトル〉にすることで、日本酒に馴染みがない若者でも手にとりやすく、パブや野外フェスなどの新しい〈場〉も開拓できると考えました。
沢の鶴にとって、代理店を介さない社外デザイナーとの商品企画は、ほとんど経験のないこと。宮﨑さんは、企画が出来上がる前から各部署に話をしたり、小林さんに会う機会を設けたりと、社内の理解を得るための準備をしていました。それでも「PRの仕方によっては〈ボトルのまま飲む〉スタイルが一気飲みを助長するのでは?」と懸念の声が上がり、PR 案がいったん白紙に戻ります。その時小林さんはアイデアを無理に押し通すのではなく、PR デザインを練り直し、全社員を前にデザインの意図の説明や、疑問や不安に答える機会を設けました。お互いの努力が実を結び、多くの社員に積極的に関わる意識が芽生え、当初想定していなかった「海外でもPR を」など活発な意見交換が行われるようになりました。そして今、ボトルのまま飲む日本酒『SHUSHU(シュシュ)』は、これまで日本酒を置いていなかった飲食店でも扱われ、海外約20 か国へも出荷される沢の鶴の新しい目玉商品となっています。
左から「沢の鶴 株式会社」マーケティング室次長の宮﨑紘二さん、「合同会社 シーラカンス食堂」代表でデザイナーの小林新也さん
沢の鶴が商品企画の悩みを相談する中で見えてきたのは、消費者の動きを肌で感じる〈営業の声〉が反映されていなかったこと。広い視点を持ったクリエイターとのやり取りは、見落としていた社内の課題に気づく機会にもなったと振り返ります。
1717年創業の酒造メーカー。
〈米を生かし、米を吟味し、米にこだわる。〉を理念に「※」マークを掲げる。2017年『SHUSHU』を発売、日本の若者に加え海外へも販路を広げている。
本社:神戸市灘区 従業員:180名
小林さんは、伝統産業や古い町工場こそ、時代とターゲットに合った正しいデザインの力で魅力を高められる、と考えています。道のりは簡単ではありませんが、企業が「変えたい」と動けば、また新たな〈ものづくり〉が始まるかもしれません。
兵庫県小野市とオランダの2拠点で、日本の伝統文化・産業の課題をデザインによって解決するべく商品開発やブランディング、販路開拓などに取り組む。
Work with播州刃物/ 播州そろばん/ 亀谷窯業/ 京都府など
【写真左】「道の駅 神戸フルーツ・フラワーパーク大沢」にて、左から「株式会社 北神地域振興」高山壽弘さん、「株式会社 AKIND」岩野翼さん・森江朝広さん
【写真右下】季節の農家ごはん1,091円(税別)
北神地域振興は、神戸市で道の駅の委託事業計画が持ち上がり「地元による、地元のための道の駅にしたい」と、高山さんら地域の中小企業3 社が立ち上げた会社。熱い思いはあるものの、道の駅の運営はおろか提案書の作成さえままならない状態で、大手ディベロッパーとコンペで競う必要がありました。そんな時に、知人の紹介で協力してもらうことになったのが、日本初のLCC『Peach(ピーチ)』などのブランド・マネジメントを手がける『AKIND(アカインド)』です。
依頼を受けAKIND が着目したのが、これまでの道の駅は〈安さ〉が目玉のため多くが赤字で、加えて若手農家の成長にも繋がっていないこと。長く続けられる道の駅にするには、安くなくても選ばれる〈価値〉を作り、農家にきちんと利益がもたらされる必要がありました。そこで打ち出したコンセプトが『地産地消を遊ぼう! Fun to eat local!』。お客さんにとっては、建築やデザインにこだわった空間で〈地産地消=地域貢献〉を気軽に楽しめる場所に。若手農家にとっては、こだわって作った農産物で利益を得ながら新たなチャレンジができる場所にするというものです。この考えは神戸市の食産業振興という面でも評価され、見事コンペを勝ち抜きました。国道にも県道にも面していない不便な立地でありながら、コンセプトの楽しさを伝える名称『FARM CIRCUS』や、サーカスのテントを思わせる建物やロゴが多くのSNS やメディアに取り上げられ、県外からわざわざ足を運ぶお客さんらで連日にぎわいを見せています。
FARM CIRCUSとして催事などに呼ばれ、ロゴ入り商品が人気に。地元農家×企業の商品開発も積極的に行う。
AKIND を一言で表すと「いい意味で宇宙人」と高山さん。海外へ頻繁に赴き発想の種を蓄える2 人のアイデアは、一見すると常識外れ。でも、後々そういうことか!と納得する瞬間が訪れるのだそう。「密にミーティングを重ねる中で思いを汲み、実現可能で採算性のある提案をしてくれた」と振り返ります。オープン後も大きな案件では相談しつつ、成長し続ける道の駅を目指しています。
道の駅を運営するために、地元の中小企業3社が立ち上げた会社。地元の雇用促進や、地元企業に販売の場を提供するチャレンジ出店にも取り組む。
本社:神戸市北区 従業員:8名
AKINDの答えは「働いている人も、お客さんも、関わる人がポジティブに動ける方向性をつくること」。成果がすぐに実感できるものではありませんが、短期的な打ち手が尽きた時に相談することで、思いがけないヒントをもらえるかもしれません。
大手ブランド・コンサルティング会社から独立し創業。国内外のクリエイティブ ・チームを活用し、顧客との接点から組織文化まで含めた課題解決を支援。クライアント側へ出向し、内部からのブランド・サポートも行う。
Work withPeach Aviation / 古民家再生プロジェクトNIPPONIA / ヒルトン大阪 / 神戸市など
今年、旧居留地で150周年、震災復興からの運営が10 周年を迎える神戸オリエンタルホテル。〈スタッフの成長〉と〈新たなアイデア〉に期待して、クリエイターと特別企画を考えるプロジェクトが行われました。全4 回のディスカッションでは、「初めてのお客様の入り口づくり」や「ホテル体験を持ち帰るプロダクト」などのアイデアが出され、今後社内の会議で実現に向けた検討がなされます。ホテルスタッフは「クリエイターでありユーザーでもある人の目線が入ることで、修正すべき点や知らなかった期待に気づくことができた。常に外部と接点を持つクリエイターのやわらかな発想とアイデアが新鮮だった」と振り返ります。クリエイターと接することが刺激となり、社内スタッフの意識の変化を促すきっかけにもなるようです。
神戸オリエンタルホテルマネージャー三枝修史さん
クリエイティブな人材と協力経験のある企業さんに聞くと、知人の紹介で出会うケースが多いようです。中には雑誌やネットで取り上げられているのを見て「気になって連絡した」というケースも。 神戸起業操練所や商工会議所などで開かれるセミナーも、出会いの場になります。直接話を聞くことで「どんな人か」を知る機会にもなるので、気軽に足を向けてみてください。
神戸起業操練所 業務責任者 鈴木英樹
デザイナー
1982年神戸生まれ。デザイン制作会社を経て、2014年7月独立。グラフィックデザインを中心に企画や制作に携わる。市民参加型イベントや教育現場など、社会的プロジェクトにも活動の場を広げる中で、デザインを広く見つめ直し取り組み中。
株式会社デザインヒーローWork with神戸市、株式会社神戸国際会館、株式会社ライフデザイン阪急阪神、スカイマーク株式会社、生活協同組合コープこうべ
設立20周年を機に法人ロゴマークを制作。つくるプロセスからデザインし、ツール関係へ展開。デザインだけに留まらず、社内の広報プロジェクト会議への参加や、デザイン向上を目的とした社内デザイン講座も実施しています。
法人と世間の接点としてデザインが大きな力になる事を教えていただきました
設立20周年を機に法人ロゴマークを制作。つくるプロセスからデザインし、ツール関係へ展開。デザインだけに留まらず、社内の広報プロジェクト会議への参加や、デザイン向上を目的とした社内デザイン講座も実施しています。
法人と世間の接点としてデザインが大きな力になる事を教えていただきました
コンテンツプロデューサー
2015年 交通事故で下半身麻痺に。博報堂を退社し、コンテンツプロデュースや企業のマーケティング活動のサポートを行う。また、NPO 法人須磨ユニバーサルビーチプロジェクトを設立し、代表としても活動している。
木戸俊介 オフィシャルサイトWork with六甲バター株式会社、スイッチオンサービス株式会社、株式会社D&I、神戸ジャーナル
2019年夏、海の家で本格チーズBBQ『Q・B・B × BBQ』の企画を立案。海の家(Kuronbow)とのマッチングをはじめ、企画プロデュース、メニュー開発、実施に向けた管理進行、企画実施に際したPR支援を行いました。
商品の新たな利用機会を促す、楽しい企画を実現していただきました
2019年夏、海の家で本格チーズBBQ『Q・B・B × BBQ』の企画を立案。海の家(Kuronbow)とのマッチングをはじめ、企画プロデュース、メニュー開発、実施に向けた管理進行、企画実施に際したPR支援を行いました。
商品の新たな利用機会を促す、楽しい企画を実現していただきました
グラフィックデザイナー
クリエイティブディレクター
企業のロゴデザインを軸に、印刷物からWEB 媒体まで幅広く制作。神戸マルシェ、旧居留地ナイトマーケットなどのイベントや展覧会・ワークショップの企画など、多分野を横断する手法を用いたPR も手がけている。コワーキングスペース、書庫バー、本屋を運営。
神戸デザインセンターWork with神戸大学、理化学研究所、ヤマハ株式会社、神戸ファッション美術館、神戸マルシェ、TEDxKobe
新規起業時の店舗ロゴマーク・パッケージのデザイン、パンフレットなどの販促ツールの制作、ブランディングを担当。毎月の契約による定期打ち合わせと、実制作などのデザインコンサルティング契約で負荷のない関係を構築しています。
デザインは大変好評で、商品の魅力を最大限に引き出していただきました
新規起業時の店舗ロゴマーク・パッケージのデザイン、パンフレットなどの販促ツールの制作、ブランディングを担当。毎月の契約による定期打ち合わせと、実制作などのデザインコンサルティング契約で負荷のない関係を構築しています。
デザインは大変好評で、商品の魅力を最大限に引き出していただきました
「抱えている課題についてクリエイターの力を借りたい!」「そもそもクリエイターとは?」という方に向けて、神戸起業操練所ではクリエイターとのビジネスマッチングやセミナーを定期的に開催しています。昨年は『FOUNDKOBE』と題し、クリエイティブへの第一歩を後押しする無料セミナーを5 回開催。様々なプロジェクトを成功させているクリエイターをゲストに迎え、「空間づくり」や「テクノロジー×クリエイティブ」など多様な切り口からクリエイティブの可能性を伝えています。セミナー後には交流会も開催しています。
我が社のコラボ事例もぜひ取材して欲しい!(自薦他薦歓迎)、コラボできるクリエイターを紹介して欲しい、などご希望・ご意見ありましたら、神戸起業操練所までご連絡ください。